平成23年9月12日 富士山周辺では台風15号の風により、人工林のいたるところで多数の倒木が発生しました。倒木は道路や草原周辺の風当たりの強いところに比較的多く発生していますが、傾くだけではなく、根こそぎ倒れているものも多く見られます。
(写真:ヒノキの人工林1,2)
40年、50年育ったスギやヒノキであるにも関わらず、樹高に対してその根の張りの小ささに驚いた記憶があります。
山寺元信州大学教授が、樹木が地中に真っすぐ伸ばす「直根」の大切さを2013年6月19日朝日新聞(夕刊)6面に述べています。「植林で苗木の植え付け時に、直根を切るというやり方が、日本の常識として長い間広く受け入れられて来た。植え付け作業を楽にするためと、直根を切ると細根が増え、苗の定着率が高くなると言われて来たためである。」
そういえば人工林で根こそぎ倒れたスギやヒノキに、太く地中に突きさす直根が伸びているのを見たことがありません。スギは直根を伸ばすと言われていますが、スギの直根を見たことがないのを不思議に思っていたのです。これで1つ分かりました。富士山で多く見る、人工林の倒れた木々は、植え付け時に直根を切られている可能性があるということです。
木は自分が生き抜くために、環境に合わせて自ら最適の形を作る力を持っています。人ができることは、木が本来もっている、根を張る力をのびのびと発揮させることだと思っています。
山寺氏は言います。
「直根がしっかりしていれば、土砂が流れても木は立っていられる。」
皮むき間伐(きらめ樹)をして明るくなった森では、広葉樹に混じってスギやヒノキの実生が多数育っています。次世代へ森を手渡す時に、これらの自然に発生した実生を育てていけば、風にマケナイ丈夫なスギ・ヒノキを残してあげられるのではないか、と考えます。なぜなら、実生は植え替え作業をされることなく、種から根を伸ばして、その同じ場所で高木へと育っていくため、その木が本来持っている姿で根を伸ばしていくことができるからです。(*実生とは、種から芽生えた稚樹)
自然のヒノキの根張りと比較して下さい。以下の2枚の写真(天然ヒノキの森1,2)は、富士山の二合目、標高1200mくらいにあるヒノキの天然林のものです。
この森では、平成23年9月の台風15号での倒木は見当たりません。倒木はどれももっと古い時代のものでした。木の太さも樹高も人工林とは全く違います。樹高が低く幹が太いためどっしり感があります。倒木の根の張りは2mを越えており、岩を抱えて倒れています。生きている時に溶岩の隙間に根をねじ込み、岩にしがみつく様に根を張って来たことが分かります。根が大地をガッチリとつかんでいるのです。これらを見た後で人工林の根を見ると、地面の上にちょこんと木が乗っている印象を受けます。
人工林は木の畑。手をかけてあげないと、丈夫な畑にはなっていきません。しかし、どこまでも人が手をかけるのではなく、だんだんと自然の再生の力を取り入れて自然の森に近づけていくことで森が強くなると感じます。森本来が持つ水の涵養力や根の張りが地面を支える力、生き物を養う力を高めていくことができるのです。それは草本や低木、高木となっていく広葉樹など多様な植物たちが混在することで最高の力を発揮するものです。
全てを人がコントロールするという考え方から、自然の再生力をどのように最大限取り入れるか、という考え方に、今まさにシフトしていく時代だと感じています。
今、国内の人工林は赤字の山と見られ、
また、多くの山主さんが完全に意欲を消失しています。
そして、森は放置され、植えられた木が密集し、光が遮断され、
熊やシカのえさもない、生態系の砂漠となっています。
50年前に植えられて、
間引きされることなく満員ラッシュ状態が続くと、
木々はお互いの成長を阻害しあいますから、
細い木が林立し、
その細い木は、
今の木材市場では二束三文に扱われるので
確かに赤字の山に思えます。
しかし、50年放置されてきた森でも、
今、間引きすべき細い木を
すべて間伐すると
ヒノキの森では10年後の次の間伐時期から、
杉の森は、もう一回、10年後に間伐すると
20年後の間伐時期から、森は黒字に転じます。
これは、現在底値とされる
今の木材市況での取引価格をもとに
切って出す経費も含めて
計算したものです。
そして、400年後に
法隆寺の改修が行われ、
そこに使える太いヒノキがあるだろうか、
という宮大工の嘆きをお聞きしたとき、
これを400年繰り返していくと
どうなるか、計算してみました。
結果は。
400年、間伐を繰り返し、
本当に立派な木、13本を1haの森に残し、
400年後にその13本を奉納するとすると
その間の累積黒字、1haあたり2797万円。
山主さんは何もしなくても、
ただ、業者さんに間伐を依頼するだけで
毎年、毎年7万円の収益が
1haの森から400年に渡って得られることになります。
問題は。
そのスタートを切る1回目、
杉の森の場合は、一回目、2回目の間伐が
赤字になること。
そして、1haあたり年平均7万円という価格は
自らの世代で考えると、
さしたる金額ではないということ。
この最初の間伐を
山主さんに経費負担を求めず、
そして、その材を自由に使わせてもらうことで
自分たちの仕事を生んでいこう、というのが
きらめ樹であり、その実現体が
きらめ樹工房です。
そして、400年に渡って、
子々孫々に年間7万円のボーナスを
手渡せる存在。
それが、今、負の遺産のように言われている
「赤字の放置林」なのです。
森の損得勘定は、もっと長いスパンで、
そして、そこに芽生える新しい生命も
ゆったりと見届ける広い視野で
考えるべきものなのかもしれません。
長く続く命を見つめれば
僕らは今、宝の国にいて、
そして、それを活かすのも殺すのも、
この10年間の僕ら次第。
今、森に手を入れるのか、入れないのか、
それは遥かな未来に繋がっている。
きらめ樹フェスでは、
そんな事についても
ざっくばらんに話し合えたらいいなと
思っております。
©おおにしよしはる
この半世紀の間に
世界の原生林が次々と
姿を消していきました。
フィリピン、インドネシア、マレーシアの森が消え、
そして今、ハプアニューギニア、ブラジルの森が
危機を迎えています。
その、およそ半分に
日本が関わっていることをご存知でしょうか?
日本は資源のない小国。
そんな言われ方がされますが
本当でしょうか。
確かに、日本の面積は
モロッコやジンバブエよりも小さい
世界で61番目。
しかし、人口は世界のベスト10入り。
10番目です。
そして、その前の9位は、ロシアです。
日本は、ロシアに告ぐ「大国」なのです。
ちなみにドイツは16位、フランス22位、イギリス23位。
24位のイタリアの人口は日本の半分以下です。
そして、日本の森林率は世界のベスト3。
国土の約7割を森が占めています。
そして、この半世紀、
日本は世界最大の木材輸入国で
あり続けました。
その規模は世界の木材流通のおよそ半分に
およぶと言われています。
世界の原生林の半分は
私たちの暮らしが壊してきた、と言っても
過言ではありません。
ロシアに次ぐ人口を持つ日本の人々が
自分の国は小さい、
その構成員である自分の存在も
その影響力も小さいと思っていたら…。
私たちの消費行動は
知らず知らず、無責任になるかもしれません。
その結果の大きさを
イメージできないからです。
そして、その繋がりを
メディアはあえて伝えないからです。
その結果として、私たちは
「見た目文化」にどっぷり浸かっています。
木材で言えば、「安くて」「見た目のいい」木は
海外からやってきます。
巨木を切り倒すと、
節のない白木が大量にとれます。
原生林では破壊的な林業が営まれる事も多く、
人件費の安さとあわせ、生産コストは小さくなります。
一方、日本の森は、
半世紀前に植えられた
細い木々がひしめき、節も多く、
1本の木からとれる板も限られます。
コストは当然、高くなります。
けれど、私たちがこのまま、
安い白木を使い続けていたら、
日本の森も壊れていきます。
過度の密集状態が続く中で限界が近づき、
風や雨で倒れる木が続出しだしています。
そして今、建材も、家具も、お寺の卒塔婆さえも
「白木が当たり前」になっています。
これを続けていくと、
私たちの暮らしは、世界10位の大国として
世界の原生林にプレッシャーを
かけ続ける方向に向かう。
しかし、私たちがふしのある材を
「味があるね」と受け入れたら
世界の森の状況は変わっていく。
私たちは、大国の一員です。
大きな力を持つ存在です。
©おおにしよしはる
今の一般住宅は謎に満ちている。
まず、平均の建て替え年数。
データを見ると、26年。
え? 家って数十年は、もつものじゃないの?
そして、そこに使われている部材の安さ。
住宅には、細い部材も必要なのだけど、
その価格は、細い丸太から、その1本を作ったのでは
絶対に合わない、という価格で取引されている。
ということは、細い部材も
太い木から作られているのですね。
もちろん、梁、桁などには太い部材が必要で
ここでは米マツが活躍している。
クロスの下張りは、石膏ボードか合板だけど
これらはいずれも低価格。
石膏ボードなどは、新品価格よりも
廃材になったときの処理費の方が高い。
合板も太い木を砕いて、
接着剤で固めたものなので、
こうしてみると、今の日本の家は
すべて、太い木から作られている。
国内に林立している
細い間伐材の行く先は
ここにはない。
そして、その安く、太い木はどこにあるかというと
多くは原生林を含む海外の森にあって
輸送の際に防カビ剤などを添加されて
日本にやってくる。
今の住宅の構造をみると、
日本の木材自給率がわずか2割しかない、
その理由がくっきり見えてくる。
で、さらに不思議なのが、
その安い、接着剤や添加物まみれの部材を
集めて作られた住宅
(家一件でドラム缶1本分のボンドが使われるという。
そして、化学物質過敏症や
他動性障害などを誘引している)が
安くはない、という事だ。
大手ハウジングメーカーの実績データでは、
平均坪単価は60万~80万円。
チラシで詠われている価格とは全然違う。
間取り変更などで実質のコストはどんどん上がり、
これなら国産材で立派な家が建つ、という
価格になっている。
立派な太い木から作られる
健康被害をもたらし、長くはもたない
(ただし、新築時の見た目は、とても綺麗な)
高価なお家。
これが、今の日本の家の実情だ。
僕たちは、これからも
こういう家を作り続け、住み続けるのだろうか?
今、僕らが取り組んでいる
「はにかむトオル君ログ」は
2m先の直径が13cmという
従来では細柱もとれないという細い木で
床も天井も壁も構成できる夢のお家。
坪単価も60万円を下回ります。
もちろん、化学物質フリーですし、
26年でダメになる、なんてことは
まず、ありえません。
場合によっては、移築すら
らくらくと出来ます。
きらめ樹フェスでは、
このミニハウスを展示します。
日本に林立する細い間伐材だけで
誰もが小さな設備投資で作れるお家。
その可能性を、
じっくり見ていただきたいと思います。
©おおにしよしはる
「いい木は、次世代に遺そうよ」「私達の代は、細い木を活かそうよ」
日本中に間伐を待つ木が大量に溢れ、それでも原生林の太い木がバサバサと伐られ続けている中で、ずっと、ずっと噛み締めてきた言葉。
間伐材サイズの木だけで立派な家を建てようと本気になっているそんな建築家は、この10年を超える歩みの中で僕のまわりにはいなかった。
自分でやるしかない。
浜松の素粋なお店・パヤカのオーナー、トオル君にいただいた6角形材のアイディアをもとに進めてきた「はにかむトオル君ログ」。
でも、確認申請を通すためには実証実験が必要で、費用は数千万円、という話もあり、そのための部材づくりも仕事の合間合間に進めることになり、その数量も3000本を超える…。
いま深刻な状況にある日本の森が崩れだし土砂災害に至ったら、そして、世界最大級の木材輸入国・日本に、原生林に依存し続ける構造が出来上がってしまったら、それは数百年の禍根を残す。
僕の中では、勝負は残り5年。この状況が5年も続けば、全国に倒壊する森が頻出しだす。
間に合うのか。
その言葉は、僕の体の中でいつも、じんわりと重くのしかかっていた。
そして、2015年6月18日。
間伐材サイズの木だけで立派な家を建てようと本気になっている建築家と初めて出会えた。導き手は愛知の杉浦剛一さん。出会った相手は長野の気鋭の建築家、須永豪さん。
森の実情から考えた適正サイズと適正価格をお伝えする。通常は、ここで、どこかに無理が生じるのだ。
ところが、彼は日本建築士連合会賞激励賞など、きらびやかな受賞歴を持つ才能豊かな建築家。
彼が設計するユニークな構造とセンスある仕上げの住宅は、この壁をラクラクと突破してくれた!
きらめ樹とのコラボ・プロジェクトが、その日のうちに始動しだした。
「いい木は、次世代に遺そうよ」「私達の代は、細い木を活かそうよ」
この言葉が、現実のものとなって日本中で響きだす。
「豊かな森を、引き継ぐ家」。数百年先を見据えた、5年の勝負。その物語が、今、動き出した。(続く) ©Yoshiharu Oonishi
壁も床も天井も、自然の木で作れる。
だけど、見渡してみると自然の木で作られた壁、床、天井が
あまりに少ない現代の日本の家。
かわりによく目にするのが、クロスの壁、天井。その下地は石膏ボードか、合板だ。
ちなみに、石膏ボードは現代では、漆喰塗りの下地にもなっている。
この石膏ボードは、とても安価だ。1畳サイズで、300円~400円。そして、クロスはさらに安価なので石膏ボードとクロスのコンビは建築コストを引き下げる「魔法の板」。
この石膏ボード、かつては、漆喰下地に僕も使ったことがある。でもこれを、もう何年も「禁じ手」としている。
理由は、家をリフォーム、解体する際にこの石膏ボードの処分費が、新品価格より高いこと。そして、石膏ボードを大量に使っている東京に処分施設が1つもなく、はるばる東北方面に行っていること。そして、地中に埋めるなど不適切な処理を行うと致死量を上回る毒ガスを排出すること。
残念ながら、石膏ボードや合板が主流の現代住宅は、平均の建て替え年数が「26年」にまで下がっている。25年ローンが終わったら、即、建て替えという数値。この状況で、買うより高い処分費が発生し、不法投棄すれば致死量のガスを出すという厄介な材料を大量に使い続けるのは、いかがなものか。
そして、白クロスの壁に対していると人間もストレスが高まっていくことも実験で明らかになっている。一方で、無垢(自然)の木の壁は?ストレスが下がり、安らぎが得られる。
しかし、建築コストを考えると日本の森に大量にある木にかえて、この石膏ボードを使わざるを得ないのだろうか?
材料費は、確かに雲泥の差だ。でも、建築費となると、実は話は変わってくる。その鍵のひとつが「小さな循環のパッケージ」。「大量生産による効率化」という呪文から離れ、「多くの人が森で働く」というシステムだ。(続く) ©Yoshiharu Oonishi
現代の住宅で、石膏ボードと並んで大活躍しているのが、合板と接着剤だ。
この問題の根っこは深くて、これを知ったときに僕はパンドラの箱を開けてしまったような気がする。
合板も、無垢の木では価格対抗できない安い材料だ。その多くは、海外の原生林からやってくる。数百年、数千年の森の大木をなぎ倒し、砕き(あるいはカツラむきにして)接着剤で何層にも固めていく。
はるばると船で運ばれ、加工手間もかかっている合板がどうして自然の木よりも安いのか?
答えは、大量殺戮と大量生産、そして、素材の買い叩きの3点セット。
日本は、世界で最大の木材輸入国。その日本の企業が関っている、原生林の伐採は林業ではない。
破壊である。
豊かな原生林に強引に分け入り、神々しい巨木を無造作に撫で伐りにし、表土の流出にも配慮を払わない。結果として、大量の土砂が流れ込み、河も死ぬ。魚が消える。
大木のみを選択的に出材、加工するから、生産効率は高くなる。狙った巨木以外の木は、ゴミ扱いだ。そして、その森の破壊に対して正当な対価を払わない。
国内では、林地の木を一斉に伐る「皆伐」をしたら、その跡地には「再植林」が義務付けられているのだが、海外の木を買う際には、こうした再植林のコストは全く考慮されていない。それどころか、原生林においては、森を元通りにする「植林技術」すらいまだに、確立されているとは言えないのだ。
何百年も何千年も「狩りに行って、獲物が獲れないことなんかない」「魚はこうやって手づかみする」という桃源郷のような暮らしを支えてきた豊かな森が消えていく。
そして、そこは東南アジアではパーム椰子の、タスマニアなどではユーカリの「工場」に変わっていく。ここで働く人の報酬も、極端に低い。自由な「森の民」が、奴隷化させられていく。元の森に戻す技術は確立されてないのに、「工場化」は出来るのだ。
それを主導しているのが、私達の国、日本である。(続く) ©Yoshiharu Oonishi
石膏ボード、合板に共通して関っているのが、接着剤。
僕は「珪藻土」も「禁じ手」にしていて、理由は1つは元データにあたってはいないけど、アメリカでは発がん性物質とされていること、そして何より、左官屋さんから「珪藻土なんて接着剤ですよ」と聞かされたこと。漆喰のような粘る性質が本来ないため、混ぜ込んだ接着剤で無理やり塗りつけているのだという。
さらに言えば、調湿効果があると謳われているが、2,3ミリ塗りつけられただけのものにどれだけ室内の湿度を吸う力があるか、という僕にとっては疑わしき材料だからだ。
このように「自然素材」と言われているけど、その裏側に問題がある、と思われるものに結構、出会ってきた。そこに共通して絡んでくるのが、接着剤だ。
合板は接着剤なしには作れない。さらには、もともとの木が日本の風土に合わないため、防腐剤、殺虫剤を練りこんで製品化される。その総量は驚くべきもので、日本の平均的な家にはドラム缶1本分もの接着剤が使用されていると言う。
それが化学物質過敏症などのシックハウス症候群を現代社会にもたらしている。「家を新築したのだけど、化学物質過敏症になり中古物件に移ったのだけど、いまだに大手の家具ショップに入れない。入った瞬間に、あの接着剤の匂いにカラダが反応してしまうんです」
そんな話を聞かせてくれた方もいる。
合板に練りこまれる大量の防虫材、防腐剤。そこには、話題のネオニコチノイドという農薬も含まれていて、しかも建築の安全規制の対象外のため使いたい放題の合板製品が「最も健康上、安心な製品」という認定を受けて世に出回っている…。なぜ、こんなリスクを犯して新素材を使う必要があるのだろう?
木と漆喰、畳、紙。「カラダにいい」と分かっているこれらの素材だけで、素敵な現代住宅はデザイン可能だ。もちろん、接着剤を使わずに。
そして、それはイコール、「世界の森を壊さない家」になる。(続く) ©Yoshiharu Oonishi
国土に占める森林の面積、68.2%世界でベスト3の森林率を誇る、森の大国・日本。この事が、知られていない。
そして、日本の木材消費量が世界3位であること、その木材の8割を原生林に依存していること、一方で、この国には国土の半分に(林野庁データとは異なります)使うためにわざわざ植えた杉・桧・カラ松が忘れ去られたかのように眠り続けていること、ももちろん多くの方がご存知ない。
忘れ去られたかのように眠り続けている日本の人工林。その姿は今、どうなっているだろうか。
細い木々が窮屈にひしめきあい、森の中には光が届かず、草もないまっ茶色の地面が広がっている。草がないくらいだから花や実も勿論無くて、鳥や動物たちの餌はもとより無い。訪れるものは誰もいない、孤独な静寂の森。
ぎゅうぎゅう詰めでお互いに太れない木々は、しかし、上には光を求めて伸びるため、ますます、もやしのように、ヒョロヒョロの姿になっていく。「線香林」といわれる由縁だ。
「森はいま、限界にきています。こんな状態が今後10年も続けば、強い風や大雪で倒壊する森が全国で頻出しはじめます。」
そう言い始めて、5年。この2年ほど、「そろそろ、のおしるしかなぁ…」という風倒木が、ここ富士山麓でも目立ちだした。各地で、土砂災害も発生している。勝負は、残り5年。
しかし、一体なぜ、こんな状態になってしまったのだろうか…?(続く) ©Yoshiharu Oonishi
使うために植えた木を使わないため、満員ラッシュ状態のまま、崩壊の危機にさらされている日本の森。かわりに原生林の巨木が大量消費され、世界の貴重な森は、今日も姿を消し続ける。
なぜ、こんな状態が続いているのか?
その最大の要因を大胆に言えば、国内の林業が「産業として成り立っていない」ことにある。木を切って原木市場に持っていってもその搬出に必要な人件費等の経費を下回る価格でしか木材が取引されない。特に杉と、杉・桧をとわず小径木(全国に溢れる細い木々です)がひどい。「伐って出せば赤字」という状態がもう20年も続いている。
しかし、なぜこんなに「長期に」続くのか?
普通の市場の感覚では、「赤字」であれば、出てくる素材は減少し、やがて品薄になるため、価格は高騰をはじめる。でも、ずっと「赤字価格」で取引が続く。国内の木材需要の2割前後の国産丸太が毎年毎年、安定して市場に出てくる。同時に、それが「森林大国でありながら、木材自給率は2割台」という事を物語っているのだけど。
それは、何故か?
はっきり書くことに怖さも感じるけど、それは、「補助金制度が中途半端」であること、そしてそれが、「林業への新規参入を阻害」していることにある。
補助金で補完されるからそれなしでは赤字の価格でも取引は継続されるのだ。そして、その補助金総額が国内木材需要の2割に相当する額。既存の林業団体は、ほぼほぼ、この補助金をベースに経営を成立させている。残りの8割は?「出せば赤字」なわけだから、永遠に出てこない。新規に事業を起こして、残りの8割を出そうとしても「補助金を受けた2割」の木と価格競合するわけだから、そんなビジネスが成立するはずがない。
では、僕らは永遠に「森林大国でありながら、原生林を消費」する「森食い虫」(海外の人が、日本のことをこう表現してます)という状態を続けなければならないのだろうか?
しかし、ひとつの手がある。(続く) ©Yoshiharu Oonishi
倒壊と、それに続く土砂災害が危惧される「8割の暗い森」を、「豊かな恵みの森」に変えて次世代に引き継ぐために。
大切なことは「森と街を繋ぐこと」。
森林大国・日本に住む私達はみな、ひとしく「森の民」。手入れが遅れている森の再生も、街の人と一緒になって進めよう。
それが「きらめ樹」(皮むき間伐)。
森の手入れだけを考えるなら、チェーンソーは要らない。鎌と竹べら、ノコギリを使って浮かせた樹皮を両手で握り、梢に向かって剥きあげていく。これで、木を切り倒したのと同様の間伐効果が得られる。女性も子どももみんなが「森作りの主役」になれる。
1年半後、皮を剥かれた木々は葉っぱを落とし、森に光が入ってくる。わずかにシダ類が点在するだけだった暗い茶色の大地が、一面の緑に萌えあがる。きらめ樹後の植生の変化は、1年目・23種、2年目・53種、3年目・76種。
「木肌、きらめく。森、きらめく。そして、そこに新しい生命がきらめく」。
3年もたてば、鳥や動物のご馳走も鈴なりだ。
皮を剥かれた木は?ゆっくりと水分が抜けて香り豊かな「天然乾燥材」になっている。軽くなっているので、重機を使わない森仕事が可能になる。設備投資も微々たるもの。この仕事を広げよう。「森で働きたい」という人が気持ちよく森で働ける環境を整えよう。
機械ではなく、人力を主体とする「ローテク森仕事」は多くの人手を必要とする。日本中の荒れた森を、毎年10%ずつ、10年で再生すると、140万人の雇用が創出される。
そして、その木を市場に持っていくのではなく、最終製品として、街の人に届けよう。製材機も中古なら安いものがある。木工機械も、中古品が使われないまま、廃業した建具屋さん、家具屋さんの手元で眠っているものが全国にある。製材も最終加工もみんなで進めていこう。仕事として成り立つ「適正な汗の値段」で。それが、「きらめ樹工房」の「小さな循環のパッケージ」。
そして、訴えていこう。「今、立派な木を使うことは、はたして、立派な行為なのでしょうか?」「私達のまわりには細い木が溢れています。私達が、それを活かせば日本の森も、世界の森も救われます。」
あとは、「細い木だけで作れる快適な家」があればいい。
そして、その家が見つかった…。
(完) ©Yoshiharu Oonishi
ブラジル
広さも資源も「巨大な国」
国土は日本の23倍。
99.5%は、標高1200m以下。
(うち41%は標高200m以下。
58.5%が200~1200mの
ゆったりと波打つような台地。)
→道が出来ると、アクセスが容易。
ブラジルの軸はコモディティ(一次産品)輸出。
石油、天然ガス、石油化学、エタノール、鉱業、製鉄、紙バルプ、肉類で
世界のリーダーシップ確立・維持を目指している。
アマゾンの面積は、4億ha。
うち19%、7600万ha(日本まるごと2つ分)が既に消失。
19世紀半ばの
先住民の人口は200万人台(現在は90万人)
ポルトガル入植者は70万人。
奴隷貿易でアフリカからつれてこられた黒人が累計400万人。
現在の人口は、1億9000万人。
近年の歩み
1964年以前
地主階級に権力が集中する寡頭支配。
1965年~85年
軍政。計画的な大規模開発。
世界最高を誇った(現在は2位)イタイプ水力発電所。(1260万Kw)
熱帯雨林を切り開いた5000kmのアマゾン横断道路。
「鉄鉱石輸出回廊」鉄鋼鉄道。(未完)
カラジャス鉱山開発(日本も長期資金を融資)
マナウス保税加工区(アマゾンの中の組立産業一大拠点)
高度成長、やがて、債務危機。
1985年~現在
民主政権。
ハイパーインフレの安定、
そして、大豆、鉄鉱石などの
中国への輸出の伸びもあって再び成長期に。
カラジャス鉱山の産出量は
2011年、過去最高の1億980万トンに。
今後の課題は、内需型産業の確立。
森林
底流にあるのは、デスマタメント・森林伐採の歴史。
(マタ=原生林)
大西洋沿岸の
かつては1億haといわれた
大西洋森林帯は、現在は90%以上消失。
80年代のアマゾン大規模開発が
「アマゾン問題」として世界の関心を集める。
外資の撤退での、プロジェクトの中止も。
1988年、「環境権」が立法化。
先住民保護区での開発も禁じられる。
同年、環境保護活動のリーダーが
地主配下に殺害されるなど、
現在も環境保護と開発の間で揺れる。
ペースは落ちたとはいえ、
2011年も62万ha以上
(04年は270万ha)の原生林が消失。
現在のルセフ政権のもとでは
世界第3位(1120万kw。2位は前述)の
ベロモンチ・ダム水力発電が
最重要プロジェクト。
これは、軍政下で計画され、
外資の撤退で止まっていたものが、
ブラジル官民の力で再開されたもの。
ダム建設の影響を受ける住民は4万人。
イザベラ環境大臣の話
「アマゾンにおいて水力発電が締める面積は、1%にも達しません。
一部の国の人たちは、自分たちの二酸化炭素消費を減らしもせず、
森林破壊を批判している。
だけど、実際、アマゾンの8割が保護されています。」
ダムの40km下流に暮らす先住民の話
「工事で川の水は半分になり、大量の魚が死んでいる」
違法伐採を取り締まる環境天然資源院 所長の話
「この数年の伐採減少は、世界的な不況のおかげで、
政府はラッキーだっただけ。
世界経済が回復すれば、伐採が再び増える可能性が高い。」
マレーシア
1980年代から90年代前半まで、日本の輸入丸太取引先の第一位は、マレーシアであり、その取引量は国単位でなく、マレーシアの単独の州で統計に残されるほどの規模であった。この時期の前半、日本の取引先第一位はマレーシア・サバ州であり、後半はサラワク州であった。
現在、「森の慟哭」というドキュメンタリー映像が作られ、今もつづくマレーシア・サラワク州の森林破壊の実態が紹介されている。
しかし、現在のマレーシアの丸太生産量は、「国全体」で年間「100万㎥」前後。それが「世界各国」に輸出されているのだが、日本がこの国と強く関わっていた1980年代~90年代初頭までの「日本の丸太輸入量」は「サバ、サラワク州」の合計だけで毎年、毎年約「1000万㎥」という凄まじさだったことを、現在の実態映像をご覧になる際に、頭の隅にとどめておいていただきたいと思う。
さらに言えば、1980年以前には、この国の原生林消失はまだ限定的なものだった。この時期に現地を訪れたルポルタージュには、澄んだ水の河で、魚を手づかみする様子が描かれている。「狩りに森に入って、獲物がとれない、なんてことはない。狩りは1日すれば充分さ。」そんな趣旨の言葉も紹介されている。
現在、マレーシアにある原生状態の森は何パーセントか?
昨年、日本を訪れたマレーシアの方に聞いてみた。
「数パーセントさ」
顔をしかめながら、彼は答えてくれた。
写真は、かつての暮らしを子どもたちの世代に伝えようという取り組みで、子どもが河に投網をうっている様子。ご覧のように河はまっ茶色だ。80年代、この河は澄んでいて、それが伐採の影響で茶色の河になっていく当時の画像も残されている。
この写真を見せながら、マレーシアの方が教えてくれた。
「かつては、投網を3回投げるだけで1日分の食料が獲れた。今は10回投げても、3匹ぐらいしか獲れない」
マレーシアの丸太は、合板に加工され、長くても25年程度しか持たない。その合板は現在も輸入され続けており、その5割弱を今も日本は輸入し続けている。僕たちをごく当たり前のように取り巻く「合板文化」が、東南アジアの熱帯林消失と強く結びついている事実を、多くの方と共有していきたいと思う。